アイスクライミング、チョイカミの勧め
アイスクライミングのシーズンです。1月21日(土)の霧積温泉周辺に続いて2月4日(土)には笛吹川東沢で講習会が行われます。
冬の山に出かけて行けば、氷に出会うのはあたりまえ、でも一般コースで出会うような氷はピッケル一本と十二本爪アイゼンとアイスクライミングの技術があれば突破出来ます。それで、アイスクライミングの技術を年に一度くらいはトレーニングしておきたいと思っています。
Timtamのアイスクライミングをするゲレンデは、太平洋側の気候に属する内陸部にある山で、森の多い山で、その山の中腹あたりの谷の中、が多いです。そこは気温こそ低いですが激しい風雪にさらされない所です。青い空の下、ほぼ無風の場所でのアイスクライミングは楽しいです。ブルーアイスを見るだけだって素敵なのに、それを登ってしまうのですから「体験の素敵さ」はより倍増されることとなるでしょう。
アイスクライミングの出来るシーズンは限られているし、用具が高価で、しかもせっかく揃えた用具は二年もしないうちに改良され形が変わってしまいます。用具の改良を追って行くには、なみなみならぬ決意が必要です。そこで、自分で用具をそろえるのは止めにして、年に一度か二度、Timtamの講習会に参加して、用具は、チャッカリ、無料で貸りて、「チョイカミ」で楽しむのがいいと思います。
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僕のアイスクライミングの思い出をたどってみましょう。
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テレビのニュース番組で、日光の雲竜渓谷の氷った滝をアイスメスという道具を使って登っているシーンを見てアイスクライミングというのがあることを知りました。それは35年も前のことだったと思います。
アイスメスというのはカクテルを作る時に氷りを砕くピックみたいな感じのものです。それを左手に持ってガツガツガツとと氷りに突き刺してホールドを作るのです。その左手をたよりに右手に持ったピッケルを振って高い地点にピックを突き刺し、それに頼って登ります。右肘が曲がり切る高さまで登ったら右手をブロックして、左手のアイスメスでガツガツガツとやってホールドを作るという手順です。
アイスメスは効率の悪い道具だったようで、左手にもピッケル(又はアイスハンマー)を持つダブルアックスという技術にすぐにバトンは移りました。ダブルアックスを最初に考えたのはアメリカのシュイナードという人です。彼の書いた技術書にはピッケルのピックのカーブはピッケルを振った時の円弧と同じ形であるのが理想と記されていました。シュイナードはその後、シュイナードという登山用品会社を作り、それを大きく育てました。岩登り用の安全ベルト(ハーネス)も制作販売していました。そのハーネスのバックルの所でベルトを折り返さないで使った人が事故を起こして、裁判になりました。
曰く、「バックルの所でベルトを折り返せとマニュアルに書いてないので賠償責任はシュイナードにある。」
会社シュイナードは倒産しました。そしてブラックダイアモンド社として再起し現在に至っています。
シュイナードの言うようにピックのカーブを円弧と同じ形にすると、氷りに刺さる力は強くても、刺さってからピックの一番先端の一点にクライマーの体重が集中します。そこに圧氷現象(圧力をかけると氷りが溶けるというふしぎな現象)が起きて保持のポイント位置が移動します。
22年ほど前にピックのカーブを円弧と反対に反り返る形(バナナピック)がたぶんフランスのシモン社から発売になりました。ピッケルの最先端だけでなくて次ぎ次ぎにあるギザギザなきざみにも協力させて保持力を高めることが出来ます。手の指をホールドにかけて力をかけるると円弧と反対に反り返ってホールドと指との摩擦の面を増やして保持力をアップさせるのと同じ原理です。
バナナピックはアイゼンの形状にも影響しました。出刃十二本爪アイゼンの出刃の部分が一本のバナナ型の縦爪(モノポイント)になったものが開発されました。モノポイントはは保持力をアップさせると同時にけり込む上下左右の角度の範囲を大きく広げました。結果としてアイスクライミングで「振り」を意識した「ムーブ」をすることが可能になったのです。
バナナピックと同時期にイタリアのロウ社からチューブピックをつけたアイスハンマーが発売されました。日本でも、カジタ社がセミチューブピックを作りました。チューブにすることで、強度を保ってピックの先端部分の鉄板を極めて薄くすることが出来ます。結果として、氷りを破壊することが少なくてピックの打ち込みが可能になりました。
しかし、チューブピックは誤って岩を打つと、薄い鉄板で出来たピックの先端がめくれるように曲がってしまって、以後その性能が極端に下がってしまいます。またピックを打ち込まずに引っかけるだけで使う方法には向きません。クライマーの支持は数年以内にとどまり、現在はみかけなくなりました。
ぼくにアイスクライミングを教えてくれた室井由美子(ボルダラーの室井登喜男クンのお母さん)さんが右手にシモンのシャッカル(バナナピック)、左手にロウのアイスハンマー(チューブピック)を持ちさっそうと(どちらかというと慎重な感じ)笛吹川・東沢の側壁に発達した氷りを登っておられた(1984年2月)のことを思い出します。
ピッケルのシャフトが真っ直ぐな棒だったころ、ピッケルの打ち込みと同時に手の拳を氷り打ち付けて痛い思いをすることが多かったのです。シャフトを「く」の字に曲げます。「く」の右側が氷り側「く」の左側がクライマー側です。「く」の上にピックがあってこれを氷りに刺すと「く」の下のシュピッツェ(石突き)の部分が氷りに当たるので、拳を守ることが出来ます。シャフトを曲げてしまうという逆転の発想を思いついてのは我がN.I.A.J(Timtamの講師が入っているガイド組合)の溝渕氏(フルネームをすぐに思い出せませんごめんなさい)です。彼は有限会社ミゾーを設立、ミゾーV1というバイルを製造販売しました。ミゾーV1は世界中のクライマーの指示を得ました。以後のアイスクライミングアックスのほとんどは「く」の字のシャフトを持つものに変わり、なんと今シーズンになっては縦走用のピッケルにもシャフトが曲がっているものを見かけるまでになりました。
ピッケルのシャフトの改良は進み電車のつり革の持ち手のようになってリーシュ(リストバンド)がなくても長く持っていられるような形のものまで出現しました。つり革の持ち手の部分に石突きがついていない(つける工夫は出来ると思う)ので、そういうアックスを杖としてつくことが出来ません。登攀の終了の後、傾斜の緩い氷りの上を歩くときとか、杖として使うことが出来ませんのでアイスクライミング競技会(海外で多く行われると聞く)仕様というべきです。
ピッケルだけでなくアイスハーケンの改良が進んできました。イボイノシシ&スクリュー→→ハーフスクリュー&スナーグ(チューブ)→→チタンスクリュー→→チタンスクリュー(内部樹脂加工、スクリュー回しつき)→→・・・。
ここ30年で登山用具はどんどん進歩しました。ゴアテックス製品、サーマレストマット、レッグループハーネス、などなど、僕はその恩恵にどれだけ預かったかわかりません。その中でもアイスクライミング用具の改良進歩のペースは最速のような気がします。その改良進歩をもし個人で追いかけていたら大変です。2年ごとに、アックス2本とアイゼン一足とハーケン数本とを更新出来るくらい金銭的にゆとりがある人は少ないです。それで、我がTimtamはアイスアックス2本(シャルレクオーク)とチタンスクリュー3本(スクリュー回しつき)を本年は購入しました。それをアイスクライミング教室の参加者みんなで使い回しにするという作戦です。アイゼンはどうするかというと、ツエルトを張って暖を取り、一つあるのモノポイントアイゼンのサイズをその中で調節してこれもみんなで使い回すのです。名付けてチョイカミアイスクライミング。(文:M浦)
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困ったとき 思い出そう
ダブルアックス バナナピック
くの字シャフト モノポイントアイゼン
逆転の発想 理論の裏付け
まず逆さまにして 考えてみよう
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