武蔵野線とつくばエクスプレス線の南流山駅から草加流山街道を東に徒歩10分(地図はTimtamのホームページの岩登りの写真の1番目の記事にある)の所にガンバクライミングジム(以後:ガンバ)という現存する中では日本で一番古い屋内人口壁(高差8m)がある。
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毎週水曜日の午後2時ごろにその人はガンバにやって来る。曜日は決まっているのだが、やって来る時間は1時の時もあれば4時の時もある。水曜日は仕事が休みの日で家事を済ませてから来るから時間は不規則になるんだそうだ。ちょっと小柄で、ムキムキではない程度に筋肉ついて、痩せて見えない程度に痩せていて、チョッピリかっこいいクライマー体型の年配の女性だ。
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ジムに到着すると、奥にいるジムのオーナ夫人(ママさん)に声をかける。着替えて、準備運動をして、ストレッチを済ませるたころジャストタイミングでママさんが出てくる。ママさんにビレーをしてもらい、壁を登ってロワーダウンで降りる。ママさんと五分くらい世間話をしながら息をととのえる。また壁を登って降りるをくりかえす。
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始めに垂直の壁を四本、次にやや緩い前傾壁を腕がパンクするまでたぶん六本くらい登る。それが二時間半くらい続く。登るルートはガムテープの色なんかで示された既製のものではなくて自分の身長に合わせて自分で作ったもののようだ。毎回同じように見えるが、実は微妙にルートが違う。壁の途中で即興でホールドを決めて変えている。全てがロープを引くリードクライミングだ。
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腕がパンクしたら20分ぐらい世間話しのインターバルをとって壁のトラバースに入る、四メートルの高さにあるクイックドロースリング(ヌンチャク)にロープをクリップしながら右へ右へと移動する。もちろん左へ左へと移動する日もあるが右移動を見る事の方が多い。四メートルの高さだけれどママさんにビレーしてもらっている。その人はボルダーリングはしない、つまり壁を飛び降りることはしないのだ。「飛び降りると衝撃で骨とか関節とかを痛めるので飛び降りることはしないようにしている。」とのことだ。トラバースすること十六メートル、そこから130度のかぶった壁を上に四メートル登って終了点でクリップ、ロワーダウンして終了する。それは十六回以上もクリップするロングルートだ。そのロングルートのメニューが終わったら、その人は帰る、かなりさっさと帰る。
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その人は以上のような登り方を、先週も、その前の週も、その前も、ずっとずっと、ガンバクライミングジムが三星(みつぼし)ウォールと言う名前だった時代からなんと20年以上も続けて来ているのだ。そして、今週も来週もさ来週もこれからもずっと続けるだろう。
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ぼくの場合は昔傷めた頸椎のズレを流山総合病院(患者を長く待たない方針に徹しているのがいい)治療してもらった帰りにガンバに寄ることが多くて、それがたまたま水曜日の夕方だった時なのだから、三ヶ月とか半年とかに一度くらいしかその人には遭遇しない。だから、最近になってようやくその人の登り方に気がついた。というか、薄々わかってたことがつながって確信できた。
「うまくなろうとしているんじゃない・・・」
「保っているんだ!」
「続けているんだ!」
「ああ!そうだったのか・・・」
その時、彼女の二十年間ガンバでの様子が見えていた。
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「ぼくも、保ってみよう。」
「それなら出来るかも知れない!」
(文:流山のタマ)
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