コラム 理系のための沢登論(1) 4・26竜喰谷遡行
今日は今シーズン初の沢ということで、T氏とK氏とともに奥秩父の竜喰谷に行ってきました。ネーミングとは裏腹に滑滝や直登できる滝が多く、薮こぎも不要で初沢にはもってこいの沢です。
7:30入渓。石楠花橋手前15mほどの地点に明瞭なふみ跡があります。天気は霧雨で濃厚な霧が立ち込めており、河原に降り立つと晴天では見られない生きいきとした苔が我々を出迎えます。甲武信小屋の主が奥秩父は梅雨の時期が一番良いと言っていたのを思い出します。
しかし気温は9℃と低く、前夜からの雨と、ここ数日の悪天で一ノ瀬川は怒涛の勢いで流れていました。渡渉ポイントを見つけ、なんとか渡渉し竜喰谷へ入っていきます。
竜喰谷の洗礼は5m滝です。4月の沢の飛沫は大変冷たく、T氏いわくやはり前回より水量が多いとのこと。しかし傾斜は緩いので直登は可能で、その後も下駄小屋の滝まで適度な滑滝、小滝が続きます。
毎度沢で最初にやることは小滝や滑を歩きながら、石や岩の形や色、苔の色からその沢の滑りやすい石、滑る苔を見つけておき、頭の中でこれらの滑る組み合わせのマトリックスを構築しておくことです。これが核心の滝を突破するときの、足の置き場の重要なデータベースとなります。Timtamで沢は経験と言われるのは、このデータベースは行った本人でなければ構築できず、また場数を踏まなければ拡張できないから、と勝手に思ったりしています。当然ながら、ただ「連れて行かれる」関係の沢登りだと、いつまでも構築できないのは自明の理ですね。
しかしどんなに滑りやすいヌルヌルの苔の岩でも、常に重力と垂直抗力の向きが縦に一直線上になっていれば滑ることは無いわけです。ところがある角度θを持った滝の、極端に摩擦係数μが低い岩の上で本人が滑らないのはmg・sinθ=μN(垂直抗力:N=mg・cosθ 体重:m)が釣り合っているときであり、θが大きいほど、μが小さいほど滑ってしまい、本人の体重はまったく関係ないことがわかります。しかし滝の角度θは山の神でもなければ変えられないわけですから、滑りたくなければμを大きくする。つまりなるべく足裏面全体で岩に吸い付き、つま先やかかとなど足裏の一部に体重を集中させないことです。これが動的な荷重のかけ方だと、人間は必ずつま先やかかとから着地しようとするから難しく、静加重・静移動である必要があります(ここから一歩踏み出す、または着地する際に滑るかどうかは、さらに加速度aとモーメントの釣り合いを考慮するから、これはまた次回)。timtamで静荷重・静移動を繰り返し教えるのも、理由はここにあると、またしても勝手に思うのです(違ったらごめんなさい)。ロッククライミングにおいて、つま先だけで岩のほんの小さい突起に足が置けるのは、ドライな岩と高性能なクライミングシューズに拠るところが大きいと思うのです。沢でそんなことをしたら、即ドボンでしょう。沢とロッククライミングは似ているようで、まったく対照的な面もあるという好例かと思います。
こんな持論を整理しているうちに、下駄小屋の滝12mに着きました。左側から簡単に登れそうですが、落ち口は水流が激しく、右岸も切り立っておりルートが読めません。ただT氏いわく途中で藪に巻けるというので、逃げ道があるなら安心です。早速ロープを出してリード開始。下部はホールドもしっかりしておりサクサク上り、途中の枝にランニングをとって、さてどうやって落ち口を突破しよう・・・。左岸に傾斜の緩い滑になった箇所があるから対岸に渡れれば終わったも同然ですが、またげるほど滝は狭くない。激流のどこかに一歩足をおかなくはならなそうです。さてどこだろう・・落ち口は水量が多く泡立っており川底が見えない。でも激流は常に岩を洗い、苔は無いはずだし、先ほどのデータベースによれば、まずこの岩は滑らない。あとは足が流されない浅いところに足を置けばいいはずだ。3点確保で軽く右足を置いてみる・・。お!足首くらの浅いところ発見!ようやく対岸に渡り、滝を突破。セルフビレイをとって、セカンドがT氏、最後にK氏が登ってきて全員無事巻くことなく直登終了。T氏は核心に残置があるのを知っており、より簡単に突破してきました。というわけで、この滝は言うほど難しくないです。Ⅲ級程度。
その後8mの階段滝と核心の10mの曲がり滝。曲がり滝は途中まで左岸を登れば簡単そうだが、やはり最後落ち口で苦労しそうです。先ほどの滝同様に落ち口で対岸に渡ればいけそうだが、今日は壊れたマーライオンかのように水流が滝の前面に噴出しており、体が吹っ飛ばされそうです。しかも霧雨と滝の飛沫で左岸の岩も濡れ濡れで、飛沫を常に浴びながら登ることになるでしょう。さすがにあの壊れたマーライオンには少々怖気づき、右岸から巻くこととなりました。ガイドでは8mの階段滝まで戻って巻くとあるが、中間点の右岸にもしっかりとしたまき道があります。尾根越えの大高巻きと、曲がり滝の横を通る小巻きがあり、小巻きは滝を越えてからの足場が悪く、切り立った崖になっていたので、懸垂下降で10mほど降りることとなりました。
この滝がいわゆる本日のメインディッシュであり、次はサラダ、デザートというところですが、これがデザートか!?というほど際どい滝もあり、ロープを出す局面もありました。(T氏は、はなっから巻いていた・・)
そんな楽しい滝も過ぎ、支流との分岐を過ぎていくと、さすがの水量も減ってきて雪渓も見え始め、ゴールの大常木林道が近くなったことを感じさせます。それにしても川のせせらぎのなか、周囲の霧と新緑に包まれたこの雰囲気はなんとも神秘的です。
いよいよ最後の分岐を過ぎて大常木林道の丸太橋にたどり着き、12:30遡行終了。詰めの薮が無いのはなんともうれしいです。
下山は地図に載っていない大常木林道を15分ほど歩くと、ムジナの巣への道と、二の瀬に至る林道の分岐点が現れます。今回は左を選び二の瀬へ向かいます。90分ほど歩き、二の瀬の舗装道にでました。
ロープを積極的に使ったので遡行時間はかかったけど、ロープワークの手さばきを学ぶ良い機会でした。今シーズンのexerciseⅠといったところですね。
記:HUKU郎

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