« June 2008 | Main | August 2008 »

July 15, 2008

ファイト一発!!のカットが永遠続く、東沢本流下部

7/12 晴れ

東沢といえば、釜の沢の千畳のナメ滝や両門の滝などがあまりに有名ですが、一方で常に巻かれる運命にある不遇の流域、それが東沢本流下部です。

このエリアの登山道を歩くと、遥か下のゴルジュ帯から常にゴーゴーと流れる爆流の音が聞こえ、沢を始めたころ、このゴルジュは到底人が入り込む領域ではないと思っていました。その中でホラの貝のゴルジュ入り口だけは、唯一河原に立つことができ、切り立った両岸の岩の隙間から、わずかにその奥を覗くことができます。そこはコバルトブルーの深い釜の奥から脈々と水が吐き出される、大変神秘的な場所で、神の領域とも思えるのでした。

その釜の先にはどんな世界があるのだろうという想像だけは膨らませながら、徐々に沢の経験をつみ、沢を始めて数年、やっと挑戦するだけの自信が身につきました。奥秩父エリアでは数少ない3級グレードの沢でありますが、今回、抜群のロープさばきと登攀技術を併せ持つM氏とともに挑戦してきたのでした。

9:15鶏冠谷出合いの手前で、アプローチシューズなどはデポし、登攀器具一式だけをもってスタート。

共同装備は50mザイル(後に40mで事足りるとわかる)。個人装備はハーケン3~4、スリング長短各3~4、カラビナ4~5、ヌンチャク1、その他通常登攀具一式。核心部のナメ滝はアブミ架け替えによるトラバースが定石のようだが、フリーで越えたとの記述もある。

とりあえず今回はアブミ無し。

(実際にはM氏が1組だけ持っていたのですが、誤ってデポしてしまったのです・・・涙)

鶏冠谷の出合いを越えると、いつもならここから巻き道である登山道に入っていくが、今回はそのまま東沢を進み、この後予測される困難を慮り身が引き締まる。

最初は深い釜に垂直に落ちる高さ5mのCS滝。右壁は崖で、左壁はツルツルの岩に苔がのっている。ホラの貝のゴルジュが核心であり、それ以外はとにかく泳げばいいんでしょ、と高をくくっていただけに早くもルートが読めない滝にぶち当たり、いきなり負けモードに入る。ルートとしてまず考え付いたのは、ツルツル岩をショルダーで登ること。試してみたものの、その先もまだ有効なホールドは無く断念。3人くらいで中国雑技団の如くこれをやれば行けるでしょう。次に滝の左側のクラック沿いを登るルートだが、1mほど泳ぐ必要があり果たして泳いだ後あのクラックに這い上がれるだろうか?という心配と途中で蝉になったら滝の釜にダイブする以外に脱出する方法はなく躊躇すImgp0773る。最後の手段として、ちょうどこの日は滝に流木が掛かっており、これを登れば突破はできそうだ。しかし流木は滝の飛沫で濡れているため、立つことはできず、木に抱きつきながら尺取虫のようにウンショウンショと登り、腕がパンク寸前 でなんとか突破。出だしからこれでは先が思いやられる・・

下で待つM氏はさっきのツルツル岩へロープを落とし、ごぼうで上る。

(その後ネットでの情報を調べると、どうも二番の方法が一般的なようで、実際に取り付くと思いのほかガバがあるとのことです)

Imgp0777この日は後続パーティがいたが、こちらは諦めて登山道を使って高まいていた。

その後は淵を泳いで滝に取り付くようなルートが続く。今日は晴れたとはいえ7月上旬で時間はまだ10時前であり、川の寒さに体がブルブルと震えてくる。(写真の黒いザックはM氏。岩じゃない)

Imgp0778

清兵衛沢手間の淵では、左岸のクラックを登ると残置があり、引っ張ってみるとあっという間に抜けてしまった・・・。ただ、ここを降りる以外に方法は無いので新たにハーケンを打ち込み、完全に効いてはいないが、全体重を預けなければ降りられそうな支点を作り、懸垂で降りる。ここが前半部で一番怖かったところだ。

その後はさしたる苦労もなく、ホラの貝のゴルジュ入り口に到着。

Imgp0781ついにこの中へ入る日がきた。中はどんな世界が広がっているのだろうか?不安と期待を胸に抱き、いざ逝かん!まずはM氏が泳いでみるが途中で押し戻され、自分も同じ結果に。それにしても登攀器具フル装備の状態で泳ぐことがこうも大変とは・・・腰にカナヅチ他を巻いて、ザック背負って、ヘルメットかぶって流れに逆らって泳ぐのだから苦労するわけだ。

そこで空身になりロープだけ腰に巻きつけて再び挑戦。今度は淵を突破し岸に這い上がるが、ここはつるつるのナメで、2回ほど川に滑り落ちて流され、やっとのことで安全地帯へたどり着いた。腰に結んだロープを解き、ザック二つを引っ張り上げ、最後にM氏を引っ張る。川をロープで引っ張られて遡行するこの状況はなんとも楽しい光景だ。

いよいよ核心部ナメ滝である。怒涛の勢いで流れる滝の右側にほぼ垂直の黒光りするツルツルの岩があり、ここをトラバースするなど到底人間業ではないと思える。

しかしここを突破するために来たんじゃないかと自分に言い聞かせ、リードを開始する。少し先にハーケンが見えるが手前は全く無く、いろいろ探しているうちに、あっという間に滑り落ち、擦り傷多数。泣けてきた。

再トライではまず手前にリスにハーケンを打ち込み、A0で次のホールドへ手を伸ばそうとするが、数メートル下はゴーゴーと音を立てながら白く泡立った滝の釜が見え、さっきまでの淵の泳ぎで体はぶるぶると震えており、今の滑落での恐怖心から完全に腰が引けてしまっている。

これでは突破できるものもできなくなる!と改めて自分に言い聞かせ深呼吸した後、慎重に次の一手をつかみにいく。ランニングをとってほっと一息したのもつかの間、ここまではまだ足を置けるようなスタンスがあったが、次はほぼ垂直の岩にソールのフリクションだけで立ちこまなくてはならない。意を決して次の一手を取りに足を置いてみる・・・おぉ?意外に滑らない。これが連邦の新兵器か、と言わんばかりにアクアステルスラバーの威力を改めて実感した。ここの数歩がホントの核心であり、あとは豊富なガバを拾えば落ち口に着地でき、ついにこのゴルジュ最大の核心を突破した。Imgp0793

  続いてM氏がランニングを回収しながら来るが、今回の場合トラバースだけにセカンドでも滑ればそれなりに滑落することは免れない。M氏も今回新たに新調したアクアステルスラバーと慎重なムーブで無事突破。

ちなみに後続パーティはこの滝で諦め撤収していた。僕らの登攀中の様子をパシャパシャと撮っており、あとで登ってきたらメアド交換でもして写真欲しいなぁと思っていただけに非常に残念。

核心も過ぎ後は楽勝と思いきや、目の前は深く長い淵があり、その先には狭いゴルジュの回廊が長さにして7mほどの急流となっている。傾斜はきつくないがCS滝もあり、白く泡立って底の見ないこの急流はルートが読めない。そしてさらにその先は川が右に曲がっておりどんな様子か全く予想がつかない。う~んこれ以上ないくらい最悪の状況だ。核心って実はこっちなんじゃないか?両岸はほぼ垂直の絶壁で巻くなど不可能と思える。相変わらず体はブルブル震えており、核心も越えたことだし、撤退か?という発想も浮かんでくるが、ここまできて撤退は悔しい。やるだけはやってみようということで、まずはM氏が泳ぎを開始した。淵は泳げたものの急流に押し戻されてきた。やはり一筋縄では行け無そうだ。

再び空身でロープを腰に巻き、スリング数本だけもって泳ぐ。途中までは左岸に張り出したゴルジュを隠れ蓑にすれば流れは緩いので簡単に進める。問題はここからで、なんとか這い上がれそうな岩は右岸にあるため、全力で急流をトラバースしなければならない。

意を決し(こればっか)、ここを突破して、アヒルのように足をバタつかせながら、急斜のツルツル岩を這い上がると、リングボルトを発見!スリングだけでも持ってきてよかった~。ハーネスもカラビナも無いが、適当にセルフをとり、再び荷物を引っ張り上げるが、ここでアクシデントが発生。引っ張りあげた後、水をたっぷり含んだザックの水を抜こうとザックをひっくり返したらハンマーを川の中に落っことしてしまった!水深は2m近くあり回収は不可能と思ったが、水面からハンマーが見える。とりあえずM氏もこちらに引っ張り、ザックを確保してもらっている間に、潜ってハンマー回収。コンタクトレンズなので、ある程度めぼしをつけて目をつぶって潜ったが、この手の沢はゴーグル必須だなと感じた。

Imgp0796 次はこの狭い回廊の突破だが、白く水は泡だっており、川底がどの程度深いか全く見当がつかない。なまじ飛び込んでもこの水流では、足が付かなければ一気にさっきの淵まで押し戻されるだろう。だが数メートル先のCS滝の石影は、水流が渦巻いており、流れが若干緩くなっているので、対岸からジャンプして滝の懐にうまく飛び込み、流される前に岩にかじり付きながら這い上がれれば突破できそうだ。またしても意を決して(何回目だ?)ダイブ。思いのほか川は浅く、胸くらいの深さだ。石はまん丸で掴めないから、滝の直撃をうけながら、両手でCSの隙間をつっぱり這い上がるしかない。やっとのことでこの先のルートが見え、一息つけそうな河原があることがわかる。続いてM氏が川に飛び込む。しかしM氏がここで足を滑らせて急流に流された。自分もセルフビレーをとれる状況ではなかったので、ロープに引っ張られて一緒に川に落ち、せっかく這い上がったCS滝から落とされそうになったが幸い二人とも川底に足がつき、無事立ち上がることができた。このエリアは水深が浅いのとCS滝の石直下は流れが緩い点が弱点のようだ。

二人とも河原まで這い上がり、リングボルトに通したロープを回収しようとしたところでまたしてもアクシデント。回収中にロープがキンクしてしまった・・・この回廊を戻ることを考えると愕然としてくる。ロープをここに残し、ゴールを踏んだ後回収しようという話もでたが、この先の状況もわからないし、懸垂下降もあるかもしれないということで、意を決して(4回目だ)キンクをほどきにリングボルトまで戻る・・再び激しい水流を浴びせられるが、先ほどよりは簡単にたどり着き、無事ロープを回収した。

この河原で一息つくも、この時点で14時。先には深い釜のある滝が続く・・・このまま日が落ちたらどうしようという不安もよぎりだすが、とにかく進むしか道は無いのだ。

深い釜の滝は左岸から巻き気味にクラックを登り、これ以上進めないところで対岸に渡る。水面まで高さにして2m、対岸までも幅2mといったところ。ただ直下の釜は深いので、対岸ぎりぎり手前に飛び込み、流される前に岩場にしがみ付けばなんとかなりそうだ。

こんな高さからの川のダイブなんて小学生以来だろうか、おりゃ!と叫び川にダイブ。3歳からやっていた水泳が水への恐怖心を和らげてくれる。

Imgp0801 ここまでくると恐怖心を超えて、ちょっと楽しいと思えるようになってきた。

M氏も同様にダイブし、その後は対岸へジャンプしたり、懸垂下降をしながら突破すると、1430頃、川幅は広がって浅くなり、眼前が開け、日の光が差し込んできた。ほどなく左岸より高巻いていた登山道が合流し、このエリアの終了点であることがわかる。

ここまで無事遡行できた喜びをM氏と分かち合い、なんともいえない充実感に満たされながら、今まで緊張して一口も食べられなかった食料をもりもりと食べる。

ついに数年来の夢だったこのゴルジュ帯を突破したのでした。自分の中で神の領域と思っていたこのゴルジュも、水量などの気象条件が合えばいつでもいける領域となりました。今はとにかく無事突破したという安堵感に満たされ、次はいつ来ようなどとは考えられないが、いつかまたこのゴルジュにきて今度はのんびりと川と戯れ、谷深いゴルジュの景色を楽しみながら遡行してみたいと思うのでした。

注記:掲載した写真はM氏の使用した防水カメラの画像を転載させていただきました。

その他の写真はtimtam写真集を参照ください。

K郎 

| | Comments (0)

« June 2008 | Main | August 2008 »