仲間と登るロープワーク(松浦)
登山のロープワークを学ぶ時、最初に伝えられるのがエイトノットだと思われます。
エイトノットを広めたのはヨーロッパアルプスのガイド達です。ガイドとお客様(クライアント)とがロープでつながる時、ガイドはそれを結んであげてお客様には手を出させたくないのです。でも、お客様はロープを自分で結びたがります。
1980年頃までの定番の結びはブーリン結びです。これが結べるお客様は少なく、結べたとしても正確でない可能性があります。そこで、お客様に結んでもらえる結びとして採用されたのがエイトノットです。加重がかかるとほどきにくくなる欠点はありますが、数メート離れた位置からでも正しく結べたかが確認出来ますし、数回の練習で結べるようになるという点でも優れています。
エイトノットは広く受け入れられ、今ではたぶん90パーセントを超えるロープを使う登山者が使っています。今度の東京オリンピックのスポーツクライミング選手達もエイトノットを使用するはずです。
2000年の頃まではエイトノットの次に初心の方に伝えられるのはクローブヒッチでした。
クローブヒッチは結びやすくほどきやすく、結んだ状態で結び目の位置が変えられるという優れものです。その結び目の位置を変えられるという特性を生かしてリードアンドフォローのロープワークの核心を担う「セルフビレーのセット」に用いられて来ました。
「セルフビレーをトル」という方が多いですが、
小川山屋根岩Ⅱ峰南稜ルートの2ピッチ目で後続2人を上げている時、私は2番目の方に
「セルフビレーをトッテ待ってて下さい」と伝えました。
その方は私のセルフビレーを解除して、余ったロープを綺麗にまとめて待っていてくれました。もし私がその場所でセルフビレーに頼って下を覗くなどしていたら。この文章を書くことはなかったと思います。以来
「セルフビレーをセット」とか
「セルフビレーを解除」とか言うようにしています。
話を戻して、前記のガイド達もお客様にクローブヒッチを伝えようとしたでしょう。でも、お客様の多くがクローブヒッチが出来るようにならなかったのだと推理出来ます。数10m垂直に登った位置で、高所作業に慣れていないお客様が、確実にクローブヒッチなどの結びが出来るようになるには、1日に数回程度は結ぶ練習をして、それを1週間は続けるぐらいの意欲と努力が必要だからです。それで、120cmスリング(下の写真の黄色いナイロン紐の輪)
の片端をハーネスのビレーループにもう片端を頑丈な支点に、安全環付カラビナで連結する方法でセルフビレーをセットするようにしました(1980年~2000年くらいかな)。簡単で確実な方法ですが、お客様がセルフビレーを外した時に120cmスリングの持ち歩きがやっかいな問題となります。肩に襷(タスキ)がけにするように伝えても、首にかけたり、長いまま腰に吊るすなどされてしまいます。腰に吊るしても引きずらない60cmスリングでも良いのですが、上から落石が来た時によける範囲が狭く(左右幅120cmしか動けない)なってしまいますので、120cmぐらいの長さが丁度良いのです(左右幅240cm動ける)。
1990年代にデイジーチェーンが登場しました。
デイジーチェーンは途中の輪を使うことでセルフビレーの長さを微調整出来て、その輪をカラビナでからげて腰に止めることで携行も用意です。誰でも出来るガースヒッチ(輪ゴムを繋ぐ時に使う)別名タイオフでハーネスのロープを結ぶ位置に連結します。
デイジーチェーンの写真上側の末端を熱で溶けないように補強してあるAの穴とBの穴の両方に通して、ガースヒッチを施して接続します(輪ゴムを引っかける要領)。
2000年代になって強度を高めたパーソナルアンカーチェーンが登場しました。
2020年現在、パーソナルアンカーチェーン(PAS)を傾向する人は、日和田山の岩場に半分くらいいる感じです。パーソナルアンカーチェーンの欠点(弾力が無い、長さがミリ単位で調節出来ない)を補える、「自在のついたロープ式のセルフビレーグッズ」を使う人も時々見かけます。今後はロープ式が増えて来るかも知れません。
しかしながらこれらのセルフビレーグッズは
①支点から1.2m以上離れていると単独ではセルフビレーをセットすることが出来ません。
②ロープ式以外は衝撃吸収力がありません。
③セルフビレー専用の用具でそれ以外の用途がほとんどありません(他に懸垂下降バックアップのセット、固定分散のセットなどの用途がある)。
④値段が数千円と高価です。
⑤雨具上下ほどの重量と体積があり、1gでも軽量化したいルートには不向き。
などの不利な点があります。
パーソナルアンカーチェーンに限らず多くの岩場でガイドとお客様の関係で発達してきたロープワークをみかけるようになりました。
①アルパインクライミングの岩場でもスリングでなくてヌンチャク(クイックドロー)を使用する。・・・お客様が回収しやすい。
②ビレー及び懸垂下降の時に手袋使用する。・・・お客様の手がビレー器に巻き込まれても大丈夫。
③懸垂下降の時にロープスリング(ブルージックコード)等でバックアップをセットする。・・・先の下りたお客様がメインロープの下端を持ってバックアップする方法だと、落石に当たる方が出るかもしれないし、確実にバックアップしていただけないかも知れない。
④大きすぎる声で合図する(ビレー解除など)。・・・声が聞こえないほど離れると不安になるお客様がいる。
⑤エイトノット以外の結びは使わない。・・・別の結ひが必要な場合はガイドが結んでしまうか、タイブロックやプーリー等の道具を使う。
⑥ビレー器はグリグリにする。・・・手を放しても大丈夫。
⑦自動ロック型のHMSカラビナを2つ以上持っている。・・・鎖場でセルフビレーがセットしやすい。
でもでも、そんなガイドとお客様の関係のロープワークでなくて、同程度の力量の仲間と登るロープワークを使う登山者が多くいてほしいと願うのです。ガイドとお客様の関係で難しい山の登るのは充分に面白いと思います。でも、同じ程度の力量を持った仲間同士で登ると、簡単な山でも面白くなるのです。緊張感というか、山行全体に核心部でない所でも、力の入り方が一桁は異なるからです(「経験の素敵さ」がプリミティブ(原始的)でビビッド(新鮮))。パーソナルアンカーチェーンは持たずにメインロープでセルフビレーをセットする。ヌンチャクは最小数しか使わないで60cmスリングを多用する。手袋をしないでビレーや懸垂下降をする(冬季は手袋をする)。懸垂下降ではバックアップをする場合としない場合を使い分ける。合図なしでもロープワークが出来る。セカンドオートロック型のビレー器を使いこなす。HMS(ハーフマスト)カラビナは1つしかもたない、ハーフマスト結びを使いこなす。軽量ねじ式安全環付カラビナを使う。リード出来る所はリードする。1gでも軽く1秒でも早くを心がける・・・などなど目指して下さい。
| Permalink | 0
Comments