60cmスリングを使いこなそう(杉原六郎)
日本の山は雨が降り灌木が生える
60cmスリングが有効
汎用性の高い山の道具といえば「ゴアテックスの雨具上下」です。雨だけでなく風にも雪にも対応し、寒い時の防寒具、ビバークの時の寝具、救助の時のオンブヒモ、などの用途があります。雨具上下は登山者全てが全ての登山に必ず持って行ってほしい用具の筆頭です(必ず持って行ってほしい用具は水筒、非常食、ヘッドランプ、など他にもいくつかあります)。
岩登り(アルパイン系)や沢登りの場合に汎用性の高い山の道具は「お助けヒモ」です。長さ10m~20mで太さが6mmのロープか幅が15mmのテープがよく使われます。高さ2m程度の悪場を通過する時に吊り上げたり下降したりに使うだけでなく、調子の悪いメンバーを補助するショートロープ、木と木を結んでその下にツエルトを吊るす、荷物をザックにくくりつける、懸垂下降の支点(捨て縄)、ビレーポイントの補強、簡易ハーネス、直径120cmの輪でおんぶヒモ、などの用途があります。「お助けヒモ」はパーティに1本あると良いです。
沢登りや薮岩歩きの場合に汎用性の高い用具は「60cmスリング」です。
①肩にかけて持ち歩けば灌木のある(3000mでも灌木はある)悪場の登攀中で片手しか使えない場所でも、支点を作ることが出来ます。
*肩にかけると、首吊りのリスクが発生します。’そのリスク’と’支点を早く作れなかったり支点間隔が遠くなってしまうリスク’を天秤にかける必要があります。
*肩にかけたスリングによる首吊り事故例を(私の場合40年間で1回だけですが)聞いています(八ヶ岳南沢アイスクライミング中らしい)。
②頭が半分も出ていなくてカラビナがかからないハーケンでも、そこにスリングを通して支点が作れます。
③60cmスリングが5本あれば垂直に垂れたロープが登れます。
*スリングによるフリクションヒッチで様々なロープワークが出来ますが、ダイニーマスリングは熱に弱いのでその対策が必要です。
④上記の「お助けヒモ」の代わりのほとんどを担うことが出来ます。
*60cmスリング4本をガースヒッチでつなぐと240cmのロープになります。つなぎ目のために強度が3分の1になることを理解した上でつないで下さい。
最近60cmスリングを肩にかけて沢登りや薮岩歩きに参加される方が少なくなりました。考えられる原因の一つに、信頼出来るリーダーやガイドをみつけて、連れて行ってもらう登山が増大していることが考えられます。
「信頼出来るリーダー(以下リーダー)は連れて行かれるタイプのメンバー(以下メンバー)が60cmスリングを肩からかけることを良しとしない」ことが多いです。メンバーはリードしないので、片手でスリングを使うことがありません。反対に、リーダーがリードする時に60cmスリングを使ってしまうと、メンバーがそのスリングを回収する時に肩にかけずに、首にかけたり(首吊りのリスクはかなり有り)、腰に垂れ下げたり(薮にひっかけてて転ぶリスク有)する可能性が高いです。だったらメンバーにとって「回収と持ち運びが用意なヌンチャク(クイックドロースリング)を使おう」と(リーダーは)考えます。スリングをシビアに使わなくて良いルートを選んで連れて行こうと考えます(ハンガーボルトによるリボルトが進んでいる人気ルートに連れて行く)。
話は少しそれますが、ビレーとか懸垂下降で手を痛める可能性が高いのでメンバーには必ず手袋を持たせるリーダーが多いです(メンバーに手袋を使わせるためにリーダーも手袋を使う)。
①リーダーにほとんどストレスを感じさせないビレーが出来る。
②「足場が悪い所からスタート」とか「藪岩」とか「ボロボロ」とか「強風」とか「強い水流が近くにある」とかでも安全に短時間に懸垂出来る。
①②のレベルの技術習得を目指して下さい(そのレベルであれば手袋が無くてもビレーや懸垂下降が出来てしまいます)。
メンバーに60cmスリングを使わせないということは、リーダーも60cmスリング使う場面が少なくなります。そういうリーダーの装備を参考にして、長短様々なスリングとヌンチャクとパーソナルアンカーチェーンと手袋とブルージックコード等をフラダンスの腰飾り様に吊り下げている人を多くみかけます。60cmスリングとカラビナ(軽量)でその腰に下げた多様な用具の種類を減らすことが可能です。
「とにかくたくさん山に行きたい(沢登りを含む)」方は多いと思います。たくさん山(沢登りを含む)に行くためには連れて行ってもらう登山でなくて、自分の計画と技術で行く登山を増やす必要があります。
60cmスリングはリーダーに連れて行かれるための装備でなくて、自分で沢登りや薮岩歩きに出かけて行くための装備です。沢と薮岩に行く登山者なら(いやそうでなくても)60cmスリングが使えるようになってほしいです。
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