N(力の単位)の誤解(杉原六郎)
写真左:長いボルトで正しく岩に打たれた場合→30KN
写真右上:室内壁用→15KN
写真右下:室内用なので短いネジで設置される
ハンガーボルトの強度が20KNとか書かれていたとします(Nは力の単位でニュートン)。地球上では1kg物体にはは毎秒毎秒9.8mの重力加速度がかかりますから9.8Nが1Kg重の力になります。質量×加速度=力
Kgは質量の単位でKg重が力の単位なんですが、以後Kg重をKgと書きます。
20KNつまり20,000Nは2,041Kgつまり約2トンです。ずいぶん大きな数字です。でも、それは静かに加重した場合の強度でしかないことは知っていて下さい。1秒でジワジワ加重した時に20KNならば、0.01秒の瞬間に加重した時は2000KNになります。0.001秒なら20000KNです。運動量の変化÷その変化にかかった時間=力 運動量=質量×速度
ハンガーボルトの場合、理想的に硬い岩、定められた設置方法、熟練した設置者、等の条件をクリアして強度が20KNになるのであって、現実にはその数字は得られないはずです。だいたい、ハンガーボルトの設置に熟練している人が必要数だけいらっしゃるのか疑問です。
上左写真のハンガーとボルトを買った時、それぞれは別売りでした。別売りなので、ハンガーは外岩用だけどボルトは後から買い足したコンクリート用なんていうのを時々見かけます。「柔らかい岩なので長いボルトに変えた」なんて話も良く聞きます。材質が異なる金属が雨水を介して接触すると一方の金属は電解質(イオン)になって溶けて行きます。それを電食(錆びる)と言う
岩場に打ってあるハンガーボルトの強度が20KNだからと言うことで、すごく信じて、それたった1つにセルフビレーをセットする人が時々います。ハンガーボルトが2つだったらビレーポイントにしてもOKとする人はしょっちゅう見かけます。
ビレーシステムの本質は力(ニュートン=N)でなくて、物体とカラビナの高度差によって放出される位置エネルギー(ジュール=J)をロープ、支点にかかるスリング、ハンガーボルト、人の体、等の弾力と摩擦でいかに吸収するかです(ハンガーボルトの1つや2つでなくて、たくさんの要素があるシステム)。高×質量×重力加速度=位置エネルギー 位置エネルギーを弾性のエネルギーと摩擦熱のエネルギーに置き換える
「静加重と衝撃加重の違いは」わかっていても、『ステンレスのハンガーボルトは錆びなくて、20KNの強度かあると思っている』とか『力(ニュートン)とエネルギー(ジュール)を混同している』とかの人(含:指導者&熟達者)は多いように感じています。
『この稿が、ハンガーボルトが抜ける可能性に、もっともっと、配慮したロープワークをする人を増やすことに役立つ』を願って止みません。
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