沢登りにおける、確保支点を作る環境は、場所毎に異なります。リーダーは、各場所に着いたら、短時間で、確保支点の作り方を決め、実践しなければなりません。それはとても難しく、責任も重大です。
沢登りの確保支点が作れるようになる方法は、「リーダーとなる強い意欲」を持って沢登りに行き、研修と経験を数年かけて積み重ねることに帰着します。一人でも多くの方がその研修と経験に挑戦してほしいと願っています。
熊より大きい岩を使う(例1)
*メインロープならば象くらいの岩でも巻ける
*普段の岩登りトレーニングでメインロープでのセルフビレーセットを心がける(ランヤード’orPAS等’を軽量化する)
*メインロープ1本でセルフビレーをセット・・・【①】
└下のa又はbの方法で
a インラインノットの場所とハーネスのビレーループをスリング(orランヤード)でつなぐ(安全環付カラビナを介して)
b インラインノットの80cm程度下に(上写真では左に)メインロープとハーネスのビレーループをクローブヒッチを使って連結する(安全環付カラビナを介して)

メインロープにクローブヒッチでセルフビレーをセットする。
熊より大きい岩を使う(例2)
*岩に長スリングを巻く
*スリングを使う方を基本としたい

熊より大きい?
*思いきり力をかけて動いたらNG

重なった岩やチョックストーンを使う

岩の周り掘って使う

岩の角にスリングをかける
岩と岩の接触部分にスリングを入れる
*筆者はそのために、チョックレンチを携行している
*テープよりロープスリングの方がベター
*チョックレンチは岩の周りを掘る時にも使う(チョッレンチの携行を推奨)

メインロープを木に巻いて支点を作る(例1)
*懸垂下降のようにして容易にロープを回収できる

メインロープを木に巻いて支点を作る(例2)
*回収しにくい作り方
メインロープを木に巻いて支点を作る(例3)
*木がロープを回収しやすい場所にあること
*セルフビレーを長く出来る(10mでもオーケーだ)
*長くて1本なのでロープの伸びで、「ビレー器をセットしている場所」の位置が変わることに注意
メインロープ2本でセルフビレーをセット(例1)・・・【②】
*この写真より上の6枚の写真は全てメインロープ1本でのセルフビレーセット(【①】を参照)になる
*セカンドにビレーしてもらったまま(リードしている状態)で樹木(頑丈な支点)から滝の落ち口まで移動出来る
*支点とハーネスの間のメインロープが2本になりロープの伸びが半分に(ロープの伸びによるビレー点のずれが少ない)
メインロープ2本でセルフビレーをセット(例2)
*一つ上の写真を参照のこと
*フリクションヒッチでビレー点を作る
捨て縄(orスリング)とカラビナ
*時と場と状況が許せば、樹木や岩にメインロープを回さない方が良い(樹木とロープを守る)
*捨て縄の場合は秒単位の早さではセット出来ない、足場が良くないとセット出来ない(捨て縄をダブルフィッシャーマンで結ぶので)。
*スリングの場合は秒単位の早さでセット出来る、不安定な足場でもセットしやすい
*カラビナは(スリングも)高価なので回収出来ない場所だと不経済
*メインロープ2本でのセルフビレーセットが出来る(【②】即ち,2つ上の写真を参照)

複数の支点を連結 (例1)
*3ヶ以上連結することを推奨

複数の支点を連結(例2)
*セルフビレーを含めクローブヒッチが多用される(【①】を参照)

さびたハンガーボルト(写真クリックで拡大)
(ハンガー2個なら安全の考えは疑問だ)
灌木の根本にスリングでフリクションヒッチ(例1)
*2ヶ所では心もとない

灌木の根本にスリングでフリクションヒッチ3ヶ連結(例2)

岩ノブと灌木でオポジションをセット

投げ縄で支点を作る

人間が確保支点(例1)
*お助けヒモでテンションをかけて吊り上げる

人間が確保支点(例2)
*腰がらみ、支点がみつからない場合

人間が確保支点(例3)
*渡渉とへつり
*川下の河原にいて、ビレー器を使わずに、ビレーヤーより下流に流される前に河原に引き上げる
*ビレーヤーが3人以上いると下流に流されても引き上げられる可能性がある。

水流を避ける支点
*人間が左右に動いてビレーの方向を変える
*メインロープ2本のセルフビレーセットをセットしている(上の【②】を参照)
時々みかける危険な例
*青スリングに流動分散がセットされていません。
*流動分散でなくて「クワッドアンカー的なセットを意図されていた」ならば、青スリングの間を割ってカラビナをかける必要があります。でも、そのようにすれば、青スリングが三角形にかかることになり、左右のボルトにかかる負荷が2倍近くになってしまいます。このような三角形にする支点は「負荷は2倍になるが、その負荷は静加重、ロープの回収のしやすさが優先」ということで、懸垂下降の時に用いられます。
*ペツルのボルト2本ならOKと考えてのセットですが、
①沢の中ではボルトの劣化が速い(流れて来た岩に打撃される,水や湿気が多いため電蝕が速い)ので頑丈とは限りません。
②近くに「腕より太い枯れていない木」とか「熊より大きくてスリングが巻ける」といった「頑丈な支点」があるのにボルトが打ってあったら、打った人は「沢登りのリーダー経験が少ない人」か「支点について本稿とは別の考えを持っている人」です。強力な電動インパクトドリルを持って入れる沢は限られます。
*ビレー器としてルベルソーキューブを使われていますが、ガイドモード(セカンドモード)でのビレー方法は2番目,3番目に滝を登る人が水流の中に吊られて身動きが取れなくなった場合の対応が不得意です。体重と水流の2つを合わせた力でのロックされるので,そのロック解除には時間がかかります(解除できないことがあり得ます)。
*ランヤードは軽量化出来ます。リーダーを目指す方は「メインロープでセルフビレーをセットする練習」を普段から行っていてほしいです(リードしないに徹する人はこの限りではない)。
*岩登りマルチピッチのビレーシステムでは水流と灌木と岩の崩れ…等の要素が毎回付加される沢登りには役不足です。
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以下、ロープウェイ方式(別名ピストン方式)について書いてみましたが、長文になってしまいました。文に加えて、写真、動画など見て総合的に理解していただきたくお願いします。沢登り中にアッセンダー方式を使うパーティは良くみかけるのですが、ロープウェイ方式は少ないです。10年続いた中高年の登山とその次に10年続いた山ガール登山のブームの間に、沢登りをする人が減少しロープウェイ方式の伝承がとぎれているようです。ロープウェイ方式はアッセンダー方式と異なり、水流によく対応したロープワークです。沢登りをする方ならば、ぜひ、研究・実践して身につけてほしいと願っています。
ロープウェイ方式全体図
*右下のオレンジロープはメインロープが足りなくなった時に繋ぐための補助ロープ(25m滝を登る時,50mロープでは数メートル足りない)

支点B付近の写真1

支点B付近の写真2
*メインロープ1本(上の【①】参照)の場合はロープの伸びが大きいのでそれを計算した位置に立つこと。クローブヒッチよりはインラインノット(バタフライ等)で輪を作る方が後でほどきやすいが時間がかかる。
セカンドが水流に吊られたらすぐに降ろせるビレー方法を使用のこと
*エイト環ビレーの制動力不足は滝の落ち口でロープが屈曲(摩擦力が加わる)することで補う。
*ハーフマストビレーはロープがキンクしやすいので、キンクを押さえながらビレー(ロープを引き上げる)すると良い。
*支点折り返しビレーは支点にかかる負担が大きいので、最近は使う人が少なくなった。また、引き上げたロープをセルフビレーに乗せる作業がやりにくいので、水流の上に立ってのビレー(3つ上の右写真)には向かない。
1、リーダーが滝を登り終えたら
①「セカンドが登って来る方向の延長線上に(出来るかぎり延長線上)」支点Aを作ります。
②支点Aに安全環付カラビナをかけて、メインロープをクリップして、ロープを折り返し、滝の落ち口の下の人が見える所まで下り、セカンド側のメインロープとハーネスのビレーループを安全環付カラビナにクローブヒッチを施して連結し、セルフビレーをセットします。
③セルフビレーがセット出来たらセカンドにビレー解除の指示(合図)を出します(岩登りマルチピッチでは,ロープをアップした後からセカンドをビレーする用意をするのは,アップしたロープが戻るように落ちてしまう可能性大なので, セルフビレーをセットし,さらにセカンドをビレーする用意までしてから,ビレー解除の合図を出します.しかし、ロープウェイ方式では下に余るロープのアップがないので,セカンド以後をビレーする用意は後からでOKなのです)。
④水流の音にかき消されて、ホイッスルでも聞こえないことがあります、手による丸かバツかの合図が良いです。ホイッスルが聞こえず、手の合図も見えない場合は別途問い合せて下さい。本稿では「キーワード(ロープがいっぱいになったら登る)」を記しておきます。
⑤支点Aとリーダーは2本のメインロープ(写真のリーダーロープとセカンドロープ)で結ばれることになります(2本なのでロープの伸びによってセルフビレーの長さが変わる量が半減されます)。
⑥その2本のロープのリーダーから1mぐらい支点Aによった所にスリング(耐摩擦熱のスリングを使って下さい)をフリクションヒッチで半固定して支点B(ビレー用の支点)を作ります(支点Bはフリクションヒッチなのでビレーしやすい位置に動かせます)。
⑦支点Bに安全環付カラビナをかけてビレーポイントとします。
⑧支点Bを使いセカンドをビレーして滝を登らせます。ビレー方法はセカンドをロワーダウンで降ろすことの出来るビレー方法でなければなりません。それはハーフマスト支点ビレーかエイト環支点ビレーか、ATCによる支点折り返しビレーです。
ATCのセカンドビレーモード(ガイドモード)を使ってのビレーはセカンドが水流に吊られた時にロワーダウンで降ろすのに時間がかかりすぎるので推奨出来ません。
⑨セカンドは登る方向が大きく変わらないかぎり、中間支点を回収しながら登ります(全て回収)。
➉サードはセカンドが登るにつれてロープを繰り出します。もし、ロープが末端まで来てしまったら、補助ロープを繋ぎます。
⑪セカンドが滝を登り終えて、安全な場所まで行ったら、リーダーはセカンドのビレーを解除します。
⑫サードは手元のロープを引き戻します。
⑬サードは引きもどしたロープに繋がり、リーダーと合図を交わして登り始めます。
⑭ フォースはサードが登るにつれてロープを繰り出します。
⑮ サードが滝を登り終えて、安全な場所まで行ったら、リーダーはサードのビレーを解除します。
⑯フォースは手元のロープを引き戻します。フォースが最後の人の場合はロープの末端に繋がって登ります。ロープがかなり余っている場合は末端でなく途中で繋がり、ロープ余りはザックに入れて登ります(これによりロープアップの時間等が短縮出来ます)
2、どうしても支点Aが作れない場所の場合は凹地に座り込んで腰がらみでビレーします。
3、ビレーで引き上げたロープの置き場について
水流がある場合はリーダーのセルフビレーの上に振り分けて乗せ、水流に持っていかれないようにします。
4、腕より太い、生きた樹木を利用して確保支点を作る場合
4-1 再度その場所に行くことが容易な樹木の場合
その樹木にスリングをラウンドターンで固定し安全環付カラビナをかけて支点Aとします。
4-2 再度その場所に行くことが困難な樹木の場合(樹木そのものが支点Aとなる)
①リーダーは樹木を乗り越え樹木を一周します。
②リーダーが樹木を乗り越え樹木を一周しない場合(一周するのがとても大変な場合)は、メインロープをハーネスから外して樹木に回し、再びハーネスと連結します。その場合、そこが、安全な場所である場合をのぞいてセルフビレーをセットしてからロープを樹木に回す作業をします。
*メインロープをハーネスから外した時にメインロープを落とさないように、くれぐれも注意して下さい。
*メインロープをハーネスから外しやすいように、メインロープはハーネスに結ばずに、ハーネスのビレーループと安全環付カラビナ連結しておくと良いです。
③自分側でないメインロープ持ち手の中でスライドさせて、カンターラッペル状態で足場の良い所まで下ります(①②共通)。
*垂直以上の下降になる場合はビレー器を使ってカウンターラッペルをセットして下ります。
④メインロープが支点(樹木)から2本降りてきている形になる、足場の良い所でその2本を結んでロープを固定します。
*滝の落ち口まで近い場合はカウンターラッペル状態のまま落ち口に行き、メインロープとハーネスをクローブヒッチで連結してセルフビレーをセットします。以下1の⑤に進みます。
4-3適当な樹木がみつからない場合
①、熊より大きい岩に補助ロープを結ぶ又はスリングを巻いてカラビナをかけ支点Aとします。
②ハーケンや岩角など複数の支点をスリング等でつないで支点Aとします。ハンガーボルトでも2ヶ連結でそれで良しとする人が多いけれど、水流に洗われる沢なのでハンガーボルトでも3ヶ以上連結します。
③大岩と大岩の接点にある隙間にスリングを通して安全環付カラビナをかけ支点Aとします。その接点付近に土や小石が詰まっていることが多いのでチョックレンチを使って掘っ取ったり、隙間からスリングを引き出したりします。チョックレンチの携行を推奨します。
⑤腕より細い灌木の場合はそれを複数本(3本以上)連結して支点Aとします。さらに、ハーケンを打ち足してそれと連結すればより確実になります。
5、支点Aでメインロープを折り返さない場合
①リーダーは自分のハーネスからメインロープ外して、それを支点Aに繋ぎ、Aからメインロープ1本で滝の落ち口まで下ります。メインロープ1本にクローブヒッチを施してセルフビレーとします。メインロープのリーダーから1mほど上の所に支点(インラインエイトノット等で作ったの輪)を作り、支点B(ビレー用支点)とします。
②支点Aとリーダーがロープ1本で繋がっているので、セカンドがテンションをかけるとロープの伸びでビレー位置が下がってしまいます。ロープの伸びの分を計算して、滝の落ち口ギリギリでなくて、少し上のゆとりある位置に支点Aを作る必要があります。
6、登攀経路が大きく屈曲すると所で中間支点を解除せず、セカンドがロープをかけ替えて登ってきた場合
①セカンドが滝を登り終えて、メインロープから離れる場合はメインロープにある結び目(インラインエイト結び等)をほどきます(中間支点を全て回収してしまった場合は、ほどかなくてもOKです)。それにより、サードがメインロープを引きもどすと、結び目が中間支点に引っかかることがなくなります。結び目のあったあたりがサードまで戻ったら、そこに再度、結び目を作って、サードのハーネスと連結します。
②セカンドがロープのかけ替え後に水流の中に吊られる可能性があ場合は、ルートが屈曲しても中間支点を回収するか、登るルートを変更するなどしてそれを防ぐ必要があります。
7、ロープの長さについて
①ロープは登る滝の高さの2倍以上の長さが必要です(メインロープで作るセルフビレーの長さa+滝を往復する部分の長さつまり滝の高さb+2番が滝の上まで上がった所から滝の下の3番までの長さつまり滝の高さbの計a+2b) 。登山教室Timtam&Cueでは50mロープ2本と補助ロープ(6mm径のロープか15mm幅テープ長さ16m)を持つのを基本としています。この組み合わせで、これまでのトラブルを含めたほとんどの状況に対応出来ています。
②補助ロープ16mは「お助けヒモ(テンションをかけて引き上げる)」、「捨て縄(必要な長さだけ切る」、「投げ縄(重りをつけて投げ支点を作る)」等に使います。
③やさしい沢は8mm径・30mロープでいいと言う方が多いですが、50mロープの方が多用途なので推奨します。50mロープは重いと思われる場合は7.2mm径のロープがあります。8mmにしても7.2mmにしてもダブルロープをシングルのように使うので、使用規定からは逸脱します。自己責任で逸脱することになります。
④セカンドが登るにつれて、下に残るロープが足りなくなり、末端まで来てしまったら、補助ロープ等をつなぎます(2本のロープで懸垂下降する時のつなぎ方)。セカンドは中間支点を回収しながら登っているので、つなぎ目が中間支点にひっかかることはありません。中間支点を回収していなくてひっかかりが予想される場合は、サードはつなぎ目の近くにつながり、セカンドと同時登攀して中間支点を回収します。

メインロープでセルフビレーをセット
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