メインロープセルフビレー+PAS+ランヤード(S崎)
読むのがめんどうな人は動画を見て下さい。4分の短い動画です。
「セルフビレーを取って、待っててください」と頼んだら、
私のセルフビレーを解除して、待たれたことがあります(小川山セレクションルートにて)。それ以来、なるべく
「セルフビレーをセットして」と言うようにしています。
セレクション1ピッチ目と2ピッチ目
セルフビレーはメインロープでセットするのが基本です。その理由は以下です。
①セルフビレーの長さを自由に調節出来ます。
②メインロープの弾力は支点とビレーヤーの体を守ります。
③セルフビレー用のランヤードやパーソナルアンカーチェーンを持たなくて済み、軽量化出来ます。
④体から出るロープ類の数が減ります。等
メインロープを体(ハーネス)に結んでいない場合は「セルフビレーをメインロープでセットする」は使えません。実は、メインロープでセルフビレーをセットしない場合はたくさんあります。
①懸垂下降の時(支点にメインロープをセット、ロープを投下、ビレー器セット確認)
②マルチピッチを「つるべ方式」で登る場合の途中のテラスにおいて、セカンドで登って来て、トップに入れ替わる時
③メインロープを使わずに高所作業する時
④鎖場を2つのセルフを交互にかけ替えながら通過する時
⑤クローブヒッチが確実に結べない可能性のある初心者に簡単・確実にセルフビレーをセットしてもらう時
<⑤の補足説明>クローブヒッチが確実に結べない可能性のある初心者を連れている場合、リーダーもメインロープでなくてランヤードでセルフビレーをセットしていれば、ランヤードでセルフビレーセットする模範動作を何度も、その初心者に、示すことが出来ます。
メインロープでセルフビレーをセットしない場合に120cmスリングを用います。テラスの上を半径100cmほどで自由に移動出来る点で120cmのスリングは重宝です(上からの落石を避けられる可能性が高い長さであることは重要)。
黄色が120cmナイロンスリング
でも120cmスリングは長さの調節が出来ないので、テンションがかかっていれば、トラブルが起きにくいのですが、テンションのかかっていない状態で墜落すると(テラスから真下への墜落)、メインロープより弾力の小さいナイロンスリングは墜落の衝撃が吸収しきれない(さらに、伸びないダイニーマスリングの場合は墜落の衝撃がほとんど吸収できない)ので、クライマーの体の弾性で、その衝撃の大部分を受け止ることになます。
「ビレーポイントから120cmの墜落を、120cmの長さのスリングで停止させる」のは「マルチピッチクライミングでクライマーが登り始めたとたん(正確にはゼロピンと1ピン目の間)に落ちたのを停止させる」の同等のエネルギーです。筆者はゼロピンと1ピン目の間で落ちて、ロープで止めてもらったことがありますが、半年ぐらい腹回りが痛かったです。ロープでなくてスリングだったとするとその痛みは???です。エネルギーは同じでもその吸収が、ロープでなくてクライマーの体になってしまうからです。
120cmスリングの長さが調節出来ないことを回避出来るので、デイジーチェーン(下図)を120cmスリングの代わりに使う人が多くなりました(1990年代後半~2010年くらいまで)。
デイジーチェーンの使い方
「デイジーチェーンの縫い目が、激しい墜落に耐えられない(縫い目を剥がすように力が加わる)」と2002年頃のクライミングの技術書に書かれれました(私は実験していませんので、本当に耐えられないかは不明)。たぶんそれが理由で、縫い目のないパーソナルアンカーチェーン(PAS)が広く普及しました(2010年代~)。
テンションをかけて使えば問題がないPASですが、テンションを緩めた所から墜落すれば、ダイニーマにほとんど弾力がないことが問題になります。そこで、伸びるナイロンを使ったPASの使用を使う人が増えてきました(2015年~)。
ダイニーマPASにしてもナイロンPASにしてもは長さの調節が段階的で、適度なテンションがかかった状態に微調整することができません。そこで、2020年ごろからロープランヤードを使う人を多くみかけるようになりました。
ロープランヤード
*ダイナミックロープ(伸びるロープ)なので、伸びて衝撃が吸収出来て、長さの微調整が可能です。
*上写真を見て下さい。右側のロープを下に引けば、左側のロープが短くなって行きます。
*上の金色の金属部品のカム作用で左側ロープは長くなりません(固定されます)。
*上の金属部品を反時計回りにひねると、カム作用が解除されます。半時計回りにひねりながら、左側のロープをクライマーの腰等を使って下に引けば(左ロープの端はクライマーのハーネスに連結しているので)、左側ロープを長く出来ます。
*付属のロープが太くて、長さの調節がスムーズでないので、自己責任で、細めのクライミングロープに取り換えている方もいます。
*市販品はビレーループにランヤードをガースヒッチで連結すします(下写真の右上の輪の所でガースヒッチを作る)。ロープを取り換えれば、ビレーループの隣にランヤードを結ぶことが出来ます(上写真の青ロープのハーネスとの連結部分を見て下さい)。
バックアップ懸垂をするために2本になっているタイプ
*バックアップ懸垂が必要な場所では、1番に降りる人のみがバックアップ懸垂、2番以後は落石の来ない所で下持ちバックアップをすることを推奨します(とにかく懸垂下降は時間がかかるので)。
*下写真では、手袋をしての作業用及び鎖場で使用を想定し、大きなカラビナをセットしています。
アンカー(ビレーポイントやトップロープの支点)にするタイプ(素早く固定分散が作れる)
*ランヤードとしては使わないので、ハーネス(体)とは結ばずに、支点作りの用具ということで携行します。
*2ヶの支点のみでアンカーをセットする方が多いですが、バックアップの支点を加えて3ヶ以上にすることを推奨しています。
まとめ、
セルフビレーはPAS、ロープランヤード、メインロープ、それぞれの利点と、欠点があります。まずは基本からなので、メインロープでのセルフビレーのセットが出来るようになっておきましょう。
補足説明
左図:リーダーがビレーポイントについて、メインロープ(青)でセルフビレーをセット
右図:リーダーがビレーポイントについて、ランヤード(赤) でセルフビレーをセット
左図:セカンドがビレーポイントについて、リーダーもセカンドもメインロープ(青)でセルフビレーをセット
右図:セカンドがビレーポイントについて、リーダーもセカンドもランヤード(赤と橙)でセルフビレーをセット
長い間、メインロープを使い、クローブヒッチでセルフビレー(以下:セルフ)をセットすることが基本と教えられて来ました。でも、最近は、メインロープでなくて、ランヤードでセルフをセットするのを見ることが多くなりました。その最大の理由は「初心者でも簡単で確実にセルフビレーがセット出来る」という点にあると思われます。
マルチピッチのルートに初心者でセカンドでのみ登るタイプの方(以下:初心者)を連れて行く場合、そういう初心者がクローブヒッチを結んでセルフをしようとすると、時間がかかったり、間違えて結んだり、します。ところが、その人がにランヤードを使っていれば、簡単確実にセルフをセットしてくれます。支点にランヤードの安全環付カラビナをかけるだけだからです。連れて行く側のリーダーも、ランヤードを使った方が、その、初心者がたぶん使うことがない「伝統的なメインロープによるセルフビレー」を中途半端に学ぶことなしで済ませられます。
下の「落下係数の計算4つ」を見て下さい、セルフビレーのランヤードにかかる衝撃加重は、ゼロピンで墜落するのと同じかやや小さいですが、1ピン目での墜落よりも大きいです。なので、ランヤードはほとんど伸びないダイニーマのパーソナルアンカーチェーンよりも、よく伸びるナイロンロープのランヤードが良いと言えます。伝統的なメインロープクローブヒッチのセルフはメインロープが細いダブルロープ(シングルロープより伸びる)であることと、クローブヒッチに衝撃吸収力があるという点で、ロープランヤードよりさらに良いと言えます。それに、ランヤードの分の体積と重さを軽量化出来ます。その体積と重さは半日分の行動食くらいは十分あります。
衝撃加重の比較:スリングランヤード(例:PAS)>ロープランヤード>メインロープ&クローブヒッチ
<テラスから不意に落ちた場合のランヤード(赤)の落下係数>
ランヤードの長さを1mとすると、最大の落下距離は1m、墜落距離1m÷ロープの長さ1m=落下係数 1
*メインロープセルフでも落下係数は1で同じです。
<ゼロピンから1m登って、リーダーが落ちた場合の落下係数>
ビレーヤーからゼロピンまでを1mとします。墜落距離2m÷ロープの長さ2m=落下係数1
<ゼロピンから2m登って、リーダーが落ちた場合の落下係数>
墜落距離4m÷ロープの長さ3m=落下係数1.33
*落下係数は1.33に上がります。なので、1ピン目はなるべく早くセットしなければなりません 。
<ゼロピンから1ピン目を経て3m登った所でリーダーが落ちた場合の落下係数>
ゼロピンから1ピン目までを1mとします。墜落距離2m÷ロープの長さ3m=落下係数 0.66
その1、Aさんだけがリードする万年セカンド方式の場合
Aさん(リーダー)はAさんとBさんが共通に使用するセルフ用の支点を作ります。Aさんはランヤードでセルフビレーをセットし、そのセルフ用支点を使って、Bさん(リードしない初心者)を登らせます。
Bさんがテラスまで登って来たら、ランヤードでセルフをセットさせます。
セルフがセット出来たら、ロープの上下を入れ替えます。上下の入れ替えには2つの方法があって、一つは、Aさんのセルフに乗っていたロープ束を上下反転させて、Bさんのセルフに乗せる方法、もう一つはAさんのセルフの乗っていたロープを上から順に、1折り返しずつ、Bさんのセルフに乗せ換えて行く方法です。次のピッチが難しい場合はロープが速く出なくなると困るので、後者の1折り返しずつ乗せ換える方法を使います。ロープを入れ替えたら、BさんのビレーでAさんが2ピッチ目のリードを開始します。テラスが広い場合はロープをセルフに乗せずに足元に置いて上下を入れ替える方法が方が確実にロープが出ます(上から2番目の図の青ロープの位置を参照)。
その2、CさんとDさんが交代でリードするつるべ方式の場合
つるべ方式なので、Cさんはメインロープクローブヒッチ連結でセルフ支点を作ることが出来ます。スリングを使う方法とランヤードを使う方法があります。Cさんはセルフ用に作った支点を使ってDさんを登らせます。Dさんがテラスまで来たら、スリング又はランヤードで仮のセルフをセットします。Dさんの仮セルフが出来たら、Cさんはセカンドのビレーモードからトップのビレーモードに切り替えます。切り替えが終わったら、Dさんが2ピッチ目のリードを開始します。万年セカンド方式にあるロープの入れ替えは不要です。
メインロープによるクローブヒッチ連結の例
*つるべ方式でのみ使える
スリング等を使っての固定分散支点の例
*写真下の大き目の茶色カラビナをトップとセカンドで共有する。
*万年セカンド方式でもつるべ方式でも使える。
*クローブヒッチ連結で作るより時間がかかる。
流動分散支点の例
*万年セカンド方式でもつるべ方式でも使える。
*支点が一つ抜けるての流動に備えるので、オートロック式のビレー器(ルベルソーキューブ,ATCガイド,等)しか使えない。ムンターやエイト環でのセカンドのビレーは不可です。ムンター等のセカンドロワーダウンさせられるビレー器を使う場合は固定分散に移行すること。
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