沢登りの魅力(簑浦登美雄)
沢登りの魅力
■ 沢登りは日本の山において最も相応しい登山形態
日本は山国であり、森林面積は国土の67%を占めている。しかし、ヒマラヤやアルプスに比べて山の標高や岩壁のスケールは小さく、氷河も無い。したがって、クライミングの対象としては残念ながらヒマラヤやアルプスの魅力に及ばないことは
明白である。
だが、日本には山を穿って渓谷が編み目状に流下し、その流水はヒマラヤやアルプスと違って清流である。渓谷によってはゴルジュや滝が現れて、その突破に困難をきたす場合もあり、沢登りの登攀要素になっている。
そんな険しい渓谷でなくとも、清流に足を浸して遡り、ナメや瀞を通過して源流から稜線に達すれば、日本の山の魅力を存分に肌で感じることになろう。山岳雑誌では台湾のような険谷の遡行記録が目を引くが、個人的には山に抱かれるような沢登りの方が日本の山には相応しいと思う。
温暖化が著しい近年、5〜9月ころは低山の尾根歩きよりも沢登りに惹かれる登山者もおられよう。近郊の日帰り遡行だけでなく、1〜2泊の長い渓谷で焚火をしながら料理を作って山懐で語り合えば、山と一体化して思い出深い山行になろう。春ならば山菜、夏ならばイワナ・ヤマメ釣り、秋にはキノコと楽しみが加わるから尚更だ。焚火や泊り場の跡形は、次に訪れる登山者に配慮して一切残さないようにしたい。
■ これから沢登りを始める方へ(危険性も含めて)
登山行為から滑落・転落をはじめとした危険性を排除することは難しい。むしろ「そのような危険性をいかに回避して登山するか」といった視点で臨んだ方が安全だ。まずはガイドブックに掲載されている誰でも楽しめるウォーターウォーキングのWWグレード1〜2から足慣らしをするのもよい。
沢登りでは濡れて滑り易い岩場の登攀やトラバースが多いので、岩登りよりも滑落の危険性が高い。滝をロープ無しで高巻く場合、フエルトソールは草付きや笹では滑るので事故が多い(ロープを使用する際は的確な中間支点が必要)。沢のグレードを徐々に上げていけば、確実なロープワークを求められる。危険箇所では常に「ここで落ちたら……」と予測して登り、危険を回避しよう。
日帰りでは遡行の核心部を楽しんだらすぐに尾根に上がって登山道を下ることもあるが、泊まりの場合には源流から詰め上げて山頂に立てば充実感が一層高まる。遡行していくと幾つも支流が分かれるから読図力が求められ、雨の日には濡れた薪を燃やすなどといった登山の総合力が沢登りには必要である。
少しずつ技術を身に付けて大いに沢登りを楽しんでください。
2025 年4月
前・白山書房 代表
簑浦 登美雄
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